小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

「七尾」というまちで

 能登半島のつけねにあたる石川県七尾市に出張があった。無理すれば東京に帰れなくはない時間だったが、金沢まで特急で出て、そこから北陸新幹線だと5時間近くかかる。泊まったほうが身体が楽だ。金沢泊という手もあったが、金沢は先月、これも出張で行ったばかりなので、今回は七尾に泊まることにした。翌日は土曜日だし……。

 初めての町である。七尾については、近年人気の近世の画家・長谷川等伯の生誕の地、コンピュータ・ディスプレイ製造の「ナナオ」(現・EIZO)の創業地、能登島を抱く七尾湾にはいい魚と海老が上がり、近世には北前貿易で栄えた──というぐらいの雑駁な知識しかなかったのだけれど、いやあ、これはこれは……。

 ここには私の琴線に触れる、いい街並みがあり、すてきな人々がいた。

「一本杉通り」の建物たち

f:id:taa-chan:20170514083331j:plain  JR西日本の七尾駅に降り立つと、輪島塗(風の?)駅名標が華やかだ。加賀友禅と思われる美しい暖簾もかかっている。これが後で述べる「花嫁のれん」だった。

 駅前は無愛想で、けっして風情があるとはいえない。ところが、そこから10分ほど歩いたところにある、「一本杉通り」が素晴らしかった。

 かつては奥能登へと向かう街道で、そこにあった杉の大木は人々に「出会いの一本杉」と呼ばれ、 目印として親しまれていたという。

 この通りには、登録有形文化財に指定されるような、江戸期の雰囲気を残した明治から昭和初期にかけての腕木構造や土蔵造の古い商家がいくつも残る。古い商店のいわゆる看板建築も面白い。こういうものは意識して残さない限り、けっして残らないものである。

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 詳しくは知らないが、地元の人々が歴史を踏まえた新しい街づくりに取り組んだ成果でもあるようだ。

 一本杉通りで最も美しい商店建築といえば、この「しら井」ではなかろうか。創業80年。北前貿易に淵源をもつ、昆布、わかめなどの海産物加工品を製造販売する。金沢市にも店を出している。いくつかお土産を買った。

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f:id:taa-chan:20170514083316j:plain「北島屋茶店」は、明治38年の大火を逃れた数少ない建築物。もとは廻船問屋の別宅だったという。

 一本杉通りから少し離れたところに「天平(てんぺい)」という銘柄の造り酒屋があった。

「かつては市内に十数軒、造り酒屋があったけれど、いま残るのはウチだけ」とおかみさんが話してくれた。三年もの、五年ものの古酒の利き酒をさせてもらい、お土産に三年ものを買った。

f:id:taa-chan:20170514083313j:plain  この「布施酒造」の土間にも、「花嫁のれん」が飾ってある。

「花嫁のれん」の由来

「花嫁のれん」とは、石川県を中心に北陸地方各地で見られる、婚礼に用いられる特別な暖簾またはそののれんを尊び用いる風習を言う。

幕末から明治時代にかけて、加賀藩の領地である加賀・能登・越中の地域で行われた。平成時代に入っては石川県能登地方の観光資源としても扱われており、地域で受け継がれた花嫁のれんの展示会やこれを使用した花嫁道中などの観光イベントが行われ、「花嫁のれん」の語は七尾市の一本杉通り振興会によって商標登録されている。

花嫁のれん - Wikipedia

花嫁のれんの色や柄には時代ごとに流行り廃りがあり、麻や綿のものも見られるが、多くは絹で加賀友禅の手法が用いられ、これもこの伝統技術が継承された一因といわれる。一本杉を中心にゴールデンウィークをはさんで二週間ほど、百数十枚の花嫁のれんが飾られ、花嫁道中も行われる。全国でもここにしかないイベントとして、観光客の評判も高い。

花嫁のれん展公式サイト《花嫁のれんとは?》|一本杉通りで開催されるイベント情報&花嫁のれんギャラリー(石川県七尾市)

 というわけである。

 私には加賀友禅の良さを語るほどの知識も美的センスもないが、婚礼儀式に一度使われたあとは箪笥にしまわれてしまう暖簾を、こうして年に一度、商店ディスプレイの一環として、あるいは観光客呼び込みの目玉に使うというのは、いいアイデアだと思う。

「語り部」たちの話は尽きず

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 「御菓子処 花月」という店で抹茶と和菓子をいただいていたら、おかみさんが待ってましたとばかりに、「花嫁のれん」イベントの来歴や店の歴史を語り始める。その話は、全国菓子博覧会から、世界的に有名になった地元出身のパティシエ・辻口博啓氏の裏話まで、何十分も、尽きることがない。

 それもそのはずで、一本杉通りにはいくつか「語り部」がいる店があって、観光客に向けて茶菓をふるまいながら、街の歴史を語る試みが行われているのだという。まあ、話し好きでないと務まらない職務ではあるけれど。

「花月」のおかさみさんの話によれば、七尾の「花嫁のれん」を世に広めるのに一役買ったのが、作家の森まゆみさん。地元の人には当たり前の古くからの習慣に、他所の町にはない得がたい魅力を見出した。「谷根千」のまちづくりで培った独特の視点とノウハウが背景にはあったのだろう。彼女は町の人々と協力し、『出会いの一本杉』という聞き書きをまとめた。格好の七尾のガイドブックにもなっているという。

 ただ、語り部たちの聞き書きのことを知ったのは帰京してから。ぜひ読んでみたいが、東京の能登観光案内所のようなところで手に入るだろうか。

古い船には新しい水夫が

 一本杉通りでは古い商家が古い商売をそのまま続けているだけではない。古い町屋の構造を活かしながら、ディスプレイを変えたり、内部をリノベートして新しい商売を始めたりした店もいくつかあった。伝統を新しいものとして見せる工夫が凝らされている。

 左の写真は、いまも土壁の糀室や杉桶のもろみ蔵などをもつ「鳥居醤油店」に並ぶ醬油差し。

 醬油よりもむしろこの器が欲しいなと思ったが、「ごめんなさい。私の個人的なコレクションなので、売り物ではないんですよ」とおかみ。

 「歩らり」という店では古い豆皿を2枚ほど買った。もともとは万年筆店だった建物で、2階の窓の意匠がペン先を模している。リノベ後は暮らしの雑貨店と銘打って、新旧の陶器やガラスの器や生活雑器、ケーキなどが、量もほどほどにセンスよく並べられている。奥座敷はお洒落なカフェになっていて、大人の女性とどこかの子供が話をしている。

「そう、パリがいいの? あなた、フランス語も話すのね」──話し手たちの顔は見えないが、そんな会話の断片が聞き取れる。

 Humbert Humbert の「おなじ話」という曲がよく似合うような店だ。東京に戻ってきて調べたら、Facebook でさり気なく店の日常を発信している。


 七尾は、今は製造元は一軒のみらしいが、「和ろうそく」の産地としても知られている(いた)らしい。

 和ろうそくの原料はハゼノキ。その果実から木蠟を採取する。しかし、ハゼノキは能登では取れない。四国の原料をここに運んだのも北前船。能登の湿気がろうそくの生産に向いていたし、なにより七尾は浄土真宗を主体とする寺町なので、需要も多かったのだと、店の若い女性が話してくれた。

 その「高澤ろうそく店」の中庭。雨露を湛えた緑の向こう、奥座敷の入口に花嫁のれんが飾ってある。壮大な山車が繰り出す「青柏祭」の賑わいも消え、静けさが戻ってきた七尾の街の、一幅の絵のような瞬間。

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「いしり」の豊かな食文化に触れる

 小雨けぶるなか、一本杉通りをいきつもどりつずいぶん歩いたら、腹がへってきた。昼食は、街並みを堀のようにつないで七尾湾に注ぐ御祓川(みそぎがわ)沿いにある「まいもん処 いしり亭」というところでいただくことにした。能登地方ならではの魚醤油「いしり」料理の専門店。庭にしつらえた釜戸で炊く能登米のご飯以外は、すべて「いしり」で味付けしているという。マイルドな塩加減と香味豊かなおばんざい風のランチだ。

 この店の人も、たんに料理を提供するだけでなく、問えば「いしり」と、能登の食文化のことを語ってくれる。

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 七尾市は人口約5万5000人。高齢化と若者の流出はここでも顕著ではある。しかしそれを座視するのではなく、地域資源を発掘し、再構築し、魅力的に発信することに力を注ぐ人々がいる。

 その静かだけれども強い意志と、知的なふるまいは──もちろん前夜のお寿司もうまかったのだが、私にとって最高のご馳走だった。

 金沢のような大きな町に宿をとらなくて、大正解だったの巻である。

「サンデー毎日」表紙が「岡田准一」の影絵だった件

 仕事柄ということもあって、まあ、新聞は読むほうだ。しかし紙の新聞はすっかり止めてしまった。読んでも読まなくても、部屋にたまって資源ゴミになるのが面倒なのだ。ただ、いくつかの新聞はネットで有料購読している。

 で、毎日新聞もデジタル会員なのだが、きょうあらためて会員特典として『サンデー毎日』がビューアーでまるごと読めることに気づいた。今頃気づくなんてマヌケ。

 『サンデー毎日』なんて、最近、床屋か歯医者かでしか目にしないな。青木理、保阪正康が連載しているのか。おお、平井玄の「東京階級地図」はなかなか面白いぞ。

対談相手の顔写真がヌケている

  で、読み進むうちに、阿木燿子の連載対談のページに行き着いたのだが、ここで不思議な光景に出くわした。今週号(5月9日号)の対談相手は「横山裕」という関ジャニ∞の子なんだが、肝心のその子の写真が誌面にないのである。ちなみに私は「横山裕」なる人の顔を知らないんだけれど(笑)。

 誌面の一部を画像で紹介すると、こんな感じだ。

 左のすっぽり白くなっているところが、本来の写真位置だ。阿木さんはまるで、塗り壁と対談しているようなことになってしまっている。

 さらにページをくっていくと、「岡田准一」のインタビューもあるのだが、これも彼の写真がすっぽり抜けて、影になっている。あらためて今週号の表紙をみると、あ、そうか、最初は何か新手のデザインかと思っていたのだが、影武者は本来は(紙版では)岡田准一なのだな。  

 うーん、これが噂の「ジャニーズの肖像権タブー」ってやつなのか。タレントの肖像権を厳密に解釈して、紙媒体なら写真OKだが、ネットには使うななどと縛りをかける。ファンクラブの子が、「今週号の○○はキムタクが表紙です」とSNSに画像をツイートするのも禁じられているという。

 新聞や雑誌の広告が、デジタル版だと抜けているというのはよくあって、これはむしろメディア側が代理店との間で結ぶ広告掲載条件ゆえの規制だと思うのだが、有名タレントの顔がネットで消滅するのは別の理由からなのだ。

ジャニーズ肖像権タブー恐るべし

 このタブーについてはこちらのブログで面白可笑しく紹介されている。

bi9rii.hatenablog.com

 日刊サイゾーのこの記事を読むと、なるほど向こうの論理はこうなっているのか、ということがわかる。

news.livedoor.com

 たしかにジャニーズ事務所の弁護士さんの話も、わからないではない。

ネットの場合は、写真のコピーが技術的に容易で、タレントの権利保護が十分に図れないというケースが多いからです。本当に報道目的だけで使われ続ければいいのですが、実際には第三者の手によってコピーが拡散して、タレントが管理できない形で肖像が使用される可能性が低くない。そのためには、入り口で、ある程度コントロールをしなければ、自分たちの権利は守れません。ですから、同じスポーツ紙であっても、紙面とウェブサイトでは別の媒体として考え、許諾・非許諾を媒体ごとに行っています。

 私なりに上記のコメントを解釈すれば、こういうことになるんだと思う。

 「タレント」とはいうが、芸能事務所にとっては「商品」である。その商品は、メディアに露出・流通することを通して初めて価値をもつ。したがって、供給者の適切なコントロールの下にメディアに多数露出させることが、この商品のマーケティングにおける最大の獲得目標になる。

 しかしながら一方で、その画像が管理されないまま、むやみやたらにネットに流出しては、その価値は希薄化しかねない。ときにはブランド価値が毀損することもある。適切にコントロールされた状態で、しかも「ここでしか見られない」という稀少性をつねに演出することで、この商品は初めて成り立つ。

 しかし商品は作り手の思いや都合だけで成立するものではない。消費者が受容し、消費し、再生産を希望するというデマンドサイドの都合があって、初めて商品は商品たりうる。それについての配慮というか考察は、上記のコメントからは感じられない。

 そのサプライサイドの論理はたしかに法律論的には正しくても、文化的論にはどこか寒々とした印象を受けるのである。

なにごとも寡占・独占はよくないよ、という話

 それにしても、他の芸能事務所でメディアに対してこんな規制をかけているところって、あるんだろうか。旬のタレントの顔写真やグラビアは雑誌の花でもあるわけで、ネットで雑誌を読む時代に、そこだけ“スミヌリ”を指示する態度って、なんだかな〜と思う。

 ちなみに、「サンデー毎日」サイトのバックナンバー紹介コーナーは、こんなヘンテコなことになっちまっている。どの号の表紙がジャニ系か、一目瞭然。スクリーンの向こうの影をみてその人を当てる、というクイズ番組が昔あったよな。

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 ジャニ系タレントが表紙を飾る確率が高い、産経新聞系のエンタメ雑誌のバックナンバー紹介はもっと悲惨だ。

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 むろんジャニ系マーケットが巨大だからこそ、この手の雑誌が跋扈するわけで、メディアと芸能事務所のビジネス利権をめぐる条件闘争、そしてその闘いでメディア側が圧倒的に負けているという戦況が、かような事態をもたらしていることは言うまでもない。

 しかしなあ、俺だって毎日新聞の購読料をちゃんと払って、デジタル版「サンデー毎日」を読んでいるのに、事務所の「許諾」が得られないばかりに、旬のタレントのご尊顔が拝めない。そういう一読者の不利益のことは、芸能産業やメディア産業はどう考えているのだろうか(別に岡田某や横山某の顔を拝みたいわけじゃないんだけれどね)。

 いずれにしても、メディアが巨大で寡占的な供給源に依存しすぎると、読者の楽しみは一定失われてしまうという、パラドクスというか、当然の帰結がここに成立してしまっているわけである。

 ま、当ブログは、あんまり肖像権意識しないでやってます。でもけっこうヘタレなんで、どこからかクレームついたら、すぐ止めますけど。

「おてしょ」

 某居酒屋の突き出し、というか、遅くまでぐだぐだ吞んでたので、店主がサービスでだしてくれたおつまみ。左はイワシのなめろう、右はなんだったっけ?

 真ん中は玉川堂(新潟・燕市)の鎚起銅器の猪口に入った、土佐・司牡丹のぬる燗。ちなみにこの猪口は長い間、店に預かってもらっているマイ猪口である。ぬる燗のときは決まってこれで出してもらうことにしている。熱伝導性が高いので熱燗だとアチアチになるけど、ぬる燗だとちょうどいい案配に熱をキープしてくれるのだ。

 で、話の本題は「おてしょ」。左の白い平皿。こういう形状のものをそう呼ぶことを、知らなかったんだよね。

 大辞林 第三版の解説によれば、

てしおざら【手塩皿】

  • ■ 手塩を盛った小さな皿。
  • ■ 香の物などを盛る、ごく小さく浅い皿。おてしょ。

 ということ。

 「てしおざら」→「てしょ」と略して→「おてしょ」と丁寧になったわけだ。

 断じて「おねしょ」ではない。

今日の朝ご飯

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 あくまでも自分のための備忘録。毎日、アップするわけじゃないから安心して下さい。

  • ・新たまねぎと豆腐と鰹なまり節(高知出張のお土産)のサラダ
    • (豆腐と新たまねぎだけにドレッシングをかけている)
  • ・豆腐+わかめ+スナップエンドウの味噌汁
  • ・一六穀米ごはん
  • ・めかぶ
  • ・煮卵
  • ・たくあん
  • ・デザートにキウイのヨーグルトかけ

映画『クリーピー 偽りの隣人』における藤野涼子の演技

 NHK朝ドラ「ひよっこ」の「兼平豊子」役の藤野涼子について、先にこういう感想を述べた。

映画『ソロモンの偽証』のあの中学生ではないか。映画初出演なのに圧倒的な演技力で度肝を抜かれた。しばらく学業に専念かと思ったが、あれだけの逸材だ。引く手あまただったのだろう。

「乙女寮」の女性たち - 小石川日乗Hatena版

 というわけで、後れ馳せながら、彼女が『ソロモンの偽証』の後に出演した、黒沢清監督の『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)という作品をWoWoWで観ることにした。

 藤野は主人公が新たに転居してきた家の隣人、西野家の娘(澪)という役どころ。この「西野」という男がサイコパスの曲者で、実の親子のようにふるまっているが、ほんとは赤の他人。澪の本当の家族と家は、この男によって完全に乗っ取られている。他の家族の運命も悲惨だが、生きているこの娘もなんらかの方法で思考と行動をコントロールされている(このあたりは、まあ、ネタバレの範囲外だと思うので、記してみた)。

 娘だけが難を逃れた、6年前のまったく別の一家失踪事件との共通点が、ここにあった。

 前川裕の原作は読んでいない。読めばもっと物語の背景がわかり、映画ももっと怖ろしげに楽しめたのかもしれないが、小説の構造を消化し切れていないのか、それとも黒沢監督なりの説明しない美学があるのか、あんまり怖くないんだな。

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映画『リチャードの秘密』──あるいは青春の殺人者について

 2015年度のアカデミー賞主要4部門にノミネートされ、結果的にはブリー・ラーソンに主演女優賞をもたらした映画『ルーム』。ラーソンの圧倒的な演技を引き出したのはむろん監督のレニー・エイブラハムソン(Lenny Abrahamson)の力でもあっただろう。

 『ルーム』よりも前、2012年にアイルランドで撮った作品が『リチャードの秘密』(原題:What Richard Did)。私としては2本目のエイブラハムソン作品だ。 www.imdb.com

 酒とタバコはやるが、けっして不良ではなく、ラグビー部所属で友人たちにも恵まれたリチャード。高校最後のパーティで、恋人ララの元彼・コナーとケンカになる。コナーはラグビー部のチームメイトでもあった。リチャードに加勢する者も現れ、コナーは倒れる。リチャードはコナーに蹴りを入れ、彼が地面にのたうつのを尻目に家に帰ってしまう。

 むろん殺意などなかった。最後の蹴りは、酔いの勢いと、別れた後もララの前に平然と現れ、親しく話をするコナーへの嫉妬からだ。しかし、コナーはおそらくその蹴りが致命傷で、翌朝遺体で発見される。警察は殺人事件として捜査に乗り出すが、犯人をなかなか絞れないでいる。

[以下は、ネタバレを含みます:Warning: contains spoilers!]

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WoWoW放映 5月中旬以降の関心作 その2

 例によって映画の解説文はWoWoWサイトからの全面的なパクリです。すいません。

http://www.foxmovies-jp.com/brooklyn-movie/t9mhds000000084r-img/stille01.jpg

写真は『ブルックリン』のシアーシャ・ローナン(オフィシャルサイトから)

  • 母よ、
  • 裁かれるは善人のみ
  • ファング一家の奇想天外な秘密
  • 裸足の季節
  • パッチ・オブ・フォグ−偽りの友人−
  • ウエディング
  • ブラックボード 戦火を生きて
  • 或る終焉
  • ブルックリン
  • ヴィクトリア
  • ティエリー・トグルドーの憂鬱
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WoWoW放映 5月中旬以降の関心作 その1

 例によって映画の解説文はWoWoWサイトからの全面的なパクリです。すいません。

 

  • 神様メール 
  • パーフェクト・ルーム
  • リップヴァンウィンクルの花嫁
  • アノマリサ
  • 愛して飲んで歌って
  • カプチーノはお熱いうちに
  • わたしに会うまでの1600キロ
  • 教授のおかしな妄想殺人
  • カンヌ 伝説が生まれる街
  • キャロル
  • ひつじ村の兄弟
  • マイ・インターン

 

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「乙女寮」の女性たち

 NHK朝ドラ「ひよっこ」では主人公「谷田部みね子」(有村架純)らが集団就職で上京し、墨田区の向島電機で働きだしている。工場に隣接する「乙女寮」での生活も始まった。当時のことだから一人部屋などでは当然なく、6人の相部屋。昨日・今日の回では、みね子の仕事ぶりをめぐって、就寝前にパジャマ姿の「助川時子」(佐久間由衣)と「兼平豊子」(藤野涼子)が激しく議論する。みね子は寝たふりをしてそれを聞いている。

 同じラインに並ぶ工場労働者たちが互いの仕事ぶりを批判したり、反対に、誰かに憧れて目標にしたりするのはよくあることだろう。岡田惠和の脚本はそこに、それぞれがここで働く理由や、東京生活に賭ける夢を盛り込んで、けっして一律でも平板でもない、女工たちの多様な個性を浮き彫りにしている。

 「豊子」役の藤野涼子は、映画『ソロモンの偽証』のあの中学生ではないか。映画初出演なのに圧倒的な演技力で度肝を抜かれた。しばらく学業に専念かと思ったが、あれだけの逸材だ。引く手あまただったのだろう。「ひよっこ」でも物言いのはっきりした気の強い性格の子として描かれている。職場の優しい先輩「秋葉幸子」役の小島藤子、病弱だが可憐な「夏井優子」役の八木優希も、悪くないね。

 なにより注目したいのは、「時子」役の佐久間由衣だ。モデル出身でドラマは3本目。「奥茨城村」の高校生を演じるころはどうなるんかなあと少し心配だったが、東京に出てきて根性が座ったようだ(笑)。

「青森のころはあんたイライラしてたんでしょ。自分は他の人とは違うって。でも、そんなことはもういいんだよ。もうここは東京なんだよ!」──「豊子」に切る啖呵は清々しいまでである。

 身長172センチの大型美人というか美少女。とろんとしたまなざしから、キリっとした眼光まで、意外と幅広く演技ができる人ではなかろうか。これからの成長に大いに期待したい。

帝国の建築家たち──ドーム対決

f:id:taa-chan:20170504210803j:plain [神奈川県立歴史博物館]

 連休だというのに仕事。しかも急に入った横浜みなとみらい案件。さいわい今日は午前中で終了したので、馬車道あたりをランチがてら小散歩。このあたりは近代建築の宝庫だ。

 神奈川県立歴史博物館(改装のため展示は休止中)はもともとは1904年(明治37)に建った旧・横浜正金銀行本店。ネオバロック様式、とりわけ青銅葺きのドームが美しい。設計は妻木頼黄(つまき・よりなか1859-1916)。ジョサイア・コンドルの弟子で、工部大学校(現・東大建築科)では辰野金吾(1854-1919)の後輩にあたる。横浜赤レンガ倉庫の設計者でもある。共に日本の近代帝国を支えたエリート建築家だった。

 辰野と妻木はかなり強烈なライバル関係にあったといわれる。国会議事堂の設計担当だった妻木に辰野がイチャモンをつけたというのは有名な話。

日露戦争後、桂内閣のもとで再び議院建築の機運が盛り上がるが、辰野金吾らは公開コンペ開催を要求し、議院の設計を進めていた妻木らを批判した。桂内閣が大正政変のため倒れた後、議院建築の計画も延期となり、妻木は官職を辞任。病気がちになり、1916年死去。

妻木頼黄 - Wikipedia

 ただ当の辰野も、コンペの審査中に亡くなってしまうのだが……

 この因縁のライバル関係を念頭におくと、それぞれの作品──辰野金吾の東京駅赤レンガ駅舎(1914年)と、妻木頼黄の神奈川県立歴史博物館(1904年)の対比はあらためて興味深い。特にドーム屋根の構造に関しては、私は東京駅のほうが意匠性に富んでいるとは思うが、妻木の正統派的な佇まいも捨てがたい。

f:id:taa-chan:20170504210837j:plain [東京駅赤レンガ駅舎]

江戸東京たてもの園

 小金井市の小金井公園の中にある野外博物館「江戸東京たてもの園」。初めて行った。予備知識が全然なかったから、「なんか歴史的建造物のミニチュアか、レプリカが置いてあるのかな」と思っていたが、意外にもホンモノをほぼ原型通りに移築・復元している。

 東、西、センターの3つのゾーンがあり、センターゾーンでは「高橋是清邸」、西ゾーンでは「前川國男邸」「田園調布の家(大川邸)」「小出邸」「三井八郎右衛門邸」などがそれぞれ興味深かった。大正・昭和のモダン建築も建物の全体容量のわりにはキッチンが意外と狭かったり、三井邸は財閥三井本家の偉容がこれみよがしで、「さすが越後屋よのぉ〜」と思ったり……。

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 わけても興味を惹いたのが、東ゾーンの看板建築群だ。「村上精華堂」は池之端にあった小間物屋で、復元されているのは、関東大震災後に建てられ、戦後も店舗として使われていた建物。イオニア式のオーダー(柱・梁の形、寸法を基準にした構成様式)を、しかも多層に積み上げている。近代建築レストラン散歩 ●村上精華堂(江戸東京たてもの園)によれば、柱も柱頭も石造ではなく型枠にモルタルなどを流し込んで作ったものだという。

 建築学的には素人デザインかもしれないが、そのファサードは端正な美しさを宿している。それが雨上がりの武蔵野の空に映える様子は、神々しいまでであった。建物があった池之端2丁目の跡地はいま「日増屋」という中華料理店になっているらしい。

 もう一つ「丸二商店」は昭和初期に神田神保町にあった荒物屋。大妻女子大のライフデザイン学科の学生による解説では、

銅板の貼り方に5通りあり、しかもその文様は、江戸小紋のパターンであるらしいです。 「亀甲」「杉綾目」「青海波」「網代」「一文字」となっていたみたいです。 側面外壁は押し縁下見板張りで、これは和風長屋の代表的な構造でした。

 とのこと。細部がまた見事なんだわ。

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南インドカレー

 日曜日の遅いランチは、水道橋にたしか昨年オープンした、南インド料理の「シリ バラジ」(Sri Balaj)

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  • 羊肉のカレー(マドラスの家庭料理) 1,500円
  • バスマティライス 500円
  • ラッシー 500円

 締めて2,500円とランチにしては安くはないが、タミール風のスパイスがよく効いて、ラム肉も新鮮で柔らかく、カレーの街・神保町のなかでもハイクラスの逸品といえる。

 薫風さわやかな午後3時過ぎ、ポール・マッカートニーの東京ドーム公演があるとかで、壱岐坂下からドーム楽屋口に至る歩道には、“入り待ち”の客が溢れかえっていた。

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映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』

http://www.asahi.com/shimbun/nie/kiji/kiji/images/20111028a.jpg

 メートル原器やキログラム原器というものがあることは知っている。長年、度量衡の科学的な意味での基準になっていた。キログラム原器の実体はプラチナ・イリジウム合金の分銅。表面吸着などの影響で質量が増加したり、洗浄するとまた微妙に質量が変化したりするらしい。変化といっても、µg(マイクログラム:1マイクログラムは100万分の1グラム)単位の微小なものだが、日常生活はともかく、サイエンスの世界では重要な変化ではある。

 そこで近年、人工物に頼るのではない、より正確で安定的な定義が求められていた。

2011年10月21日に国際度量衡総会(CGPM)において、キログラム原器による基準を廃止し、新しい定義を設けることが決議された。 この決議を実現するために、キログラムをプランク定数 h によって定義することが2013年12月に提案された。……しかし、2014年11月18 - 20日に開催されたCGPMでは、プランク定数の精度が十分でないことなどにより上記の定義への変更はなされず、次の2018年開催予定の第26回CGPMに向けて定義変更のための諸課題を解決すべし、との決議が採択された。

キログラム - Wikipedia

 前置きが長くなったが、映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』はこの「国際キログラム原器」が舞台の重要なアイテムになっている。

 主人公のマリエはノルウェーの国立計量研究所に勤務する研究者という設定。各国に配布された原器の、ノルウェー版複製を保管する組織だ。この複製原器は約40年ごとに特殊な天秤を用いて国際キログラム原器と比較されることになっている。マリエは病に倒れた父(も同研究所の研究者)の代理で、その定期較正のためにパリを訪れる。

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