この本で詳細に触れられている、田野大輔・甲南大教授の授業実践については、その概要を本人が「私が大学で「ナチスを体験する」授業を続ける理由」という寄稿にまとめている。
以下、同書で紹介されたナチスのエピソードと、それに対する私の感想をメモ。
■アイドルとしてのヒットラー
ヒトラーの人気の理由は、ほかの角度からも説明することができる。ナチス時代、ヒトラーの民衆的な人気を反映して、彼を取り上げたたくさんの写真集が発売されていた。タバコを買うともらえる写真を貼り付けて完成させるアルバムが発売され、その発行部数が30万部以上もあったのである。ヒトラーは独身で家庭をもっていなかったが、オーストリアに近い山岳地域のオーバーザルツベルクに山荘をもっていて、そこで何か月も休暇を過ごすのをならわしとしていた。その休暇中のヒトラーに焦点を当てた写真集が何種類もあり、それぞれ数十万部発行されていた。当時のドイツでは、どの家庭にも一冊はあったのではないかと思われるほどの発行部数である。そういう写真集で強調されているのは、ベルリンで公務に就いているときの厳しく険しい顔をしたヒトラーではなく、休暇をゆったりと過ごしている彼の打ち解けた人間的な表情である。ある写真のキャプションには、「総統も笑うことがある」と書かれている。「われわれが知っているヒトラーは厳しい顔をした総統だが、私生活ではこんなに温和な表情を見せることもある」というギャップが、ここでは強調されている。
田野 大輔『ファシズムの教室』Kindle 版 No.343-345
コロナ禍の渦中、自宅でくつろぐ姿を演出して、「ステイ・ホーム」という新たな道徳規範を浸透させようとした、どこかの首相のプロパカンダ手法と、これはよく似ている。 ヒトラーはこのプロパガンダによって、「ほかの多くの政治家や党員たちとは違って、庶民と変わらない善良で誠実な心をもった指導者」(田野)というイメージを流布することができたという。
さて、現代のどこかの首相はそれに成功しただろうか。ヒトラーの真似っこが中途半端なあまり、自爆したというのが、後世の歴史が示す答えだろう。
同書より
(ナチスの党大会に関して、当初、一般大衆の関心はさほど高くはなかったのだが)こうした状況のもとで一定の参加者を確保するため、大会当局は様々な便宜をはかることになった。その一つが、金銭的な援助である。ドイツ各地の職場から選ばれた参加者には、ナチ党の圧力で数日の有給休暇が与えられたため、汽車賃と食事つき宿泊費が実質無料となった。参加者からすれば、これはニュルンベルク観光を援助してくれるというおいしい話だった。だがさらに重要なのは、大会への客寄せを目的として、様々な娯楽の催しが提供されたことである。「民衆の祭典」と銘打って、会場周辺で各種のアトラクションが提供されたが、そのなかにはサッカーの試合から大道芸、フォークダンス、映画上映、ビアガーデン、打ち上げ花火まで、ありとあらゆる催し物が含まれていた。無料で参加できるこの楽しいお祭りこそ、多くの参加者の求めるものだった。
田野 大輔『ファシズムの教室』Kindle 版No.896-903
これはまるで「桜を見る会」だな。