小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

映画『クリーピー 偽りの隣人』における藤野涼子の演技

 NHK朝ドラ「ひよっこ」の「兼平豊子」役の藤野涼子について、先にこういう感想を述べた。

映画『ソロモンの偽証』のあの中学生ではないか。映画初出演なのに圧倒的な演技力で度肝を抜かれた。しばらく学業に専念かと思ったが、あれだけの逸材だ。引く手あまただったのだろう。

「乙女寮」の女性たち - 小石川日乗Hatena版

 というわけで、後れ馳せながら、彼女が『ソロモンの偽証』の後に出演した、黒沢清監督の『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)という作品をWoWoWで観ることにした。

 藤野は主人公が新たに転居してきた家の隣人、西野家の娘(澪)という役どころ。この「西野」という男がサイコパスの曲者で、実の親子のようにふるまっているが、ほんとは赤の他人。澪の本当の家族と家は、この男によって完全に乗っ取られている。他の家族の運命も悲惨だが、生きているこの娘もなんらかの方法で思考と行動をコントロールされている(このあたりは、まあ、ネタバレの範囲外だと思うので、記してみた)。

 娘だけが難を逃れた、6年前のまったく別の一家失踪事件との共通点が、ここにあった。

 前川裕の原作は読んでいない。読めばもっと物語の背景がわかり、映画ももっと怖ろしげに楽しめたのかもしれないが、小説の構造を消化し切れていないのか、それとも黒沢監督なりの説明しない美学があるのか、あんまり怖くないんだな。

 そもそも世評というか国際的評価が高いわりには、この監督の作品はあまり私には馴染めない。ちゃんと追いかけていなくて申し訳ないのだけれど、『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(2013年)とか『岸辺の旅』(2015年)は、意味ありげの暗いトーンがチープシックに長々と続くばかりなので、WoWoW録画ではあるが、途中で観るのを止めてしまったほどだ。

 一方、湊かなえ原作でWoWoWのドラマW枠でやった『贖罪』(2012年)は、まあまあ面白かったけれど。

 というわけで映画自体はあまり期待していなかったのだが、藤野涼子はけっこうな難役をこなしていた。可愛らしい中学生の表情と、マインドコンロールが一瞬外れるときの恐怖に満ちた表情、男に母親をどうにかしろと命じられたときの無表情の表情……それらを使い分けなければならない。そして最後のカタストロフィーで喜々としてはしゃぐシーン。

 香川照之がサイコパスというのはまあわかるし、西島秀俊が犯罪心理学かぶれの元刑事というのもわからないではなく、このあたりは想定の範囲だ。ただ、西島の妻役の竹内結子は、物語の中でなんで香川に支配されてしまうのか、その機微が伝わらないから、結局、その演技も中途半端のように見えた。

 救いはやはり藤野涼子だった。この子だけが、唯一、自分の演技の可能性を最大限、映画にぶつけていたように思う。新人ゆえの、それも並ならぬ力量を持つ新人ゆえにできたこと。それが結果的に、想定を越えた、演技者としての成功につながったのかもしれない。

 まあ、こういう破綻すれすれの映画にいきなり抜擢されて、大変だったとは思うけれどね。

 

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