小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

イサジ式ライブ@いわき

イサジ式04



「イサジ式」というフォーク・ミュージシャンのことは以前のブログに書いたことがある。あらためて紹介すると、本名を「伊佐治 勉」といい、本業のイラストレーションでは「ツトム・イサジ」を名乗っている。そのかたわらフォークシンガーとしての活動歴も長い。故・高田渡の知遇を得て、周辺のミュージシャンとも交流があったし、いまもある。ちなみに「イサジ式」という芸名の由来は、なぜか「サクマ式ドロップ」から来ているという。

 

 アメリカン・フォークやブルースの原器を参照しながら、自分の言葉を弾き語るスタイルは、今となってはオールド・ファッションかもしれないが、我々の世代には親しいものだ。むろんイサジ式はファッションだけの人ではない。フォークがいま生きている民衆の溜息、吐息を映すものだとすれば、例えば彼なりの視点で「3.11」後の放射能汚染地区=「帰れない町」のありさまを語る語り口は、たんなる叙情とかノスタルジーとかを超えて、現代社会へのアクチュアルな問題意識があらわだ。フォークソングのある意味では原点に、忠実な歌い手ではある。

 

 演奏合間のMCも自嘲気味の皮肉とユーモアに満ちていて、話芸としても楽しめる。一口でいえば庶民的であり、庶民の生活のしたたかさを衒うことなくさらけ出す。そう言えば伊佐治くんは、小学生のころから、人を笑わせるのが得意な奴だった。

 

 そうなのだ。実は彼は私の小学校時代のクラスメイトなのだ。中学校、高校も同じ学校。父親同士の勤務先が同じで、福島県いわき市小名浜という海浜地区にある、同じ会社の別の社宅でそれぞれ育った。ただ、中学、高校時代はそれほど交流が深かったとはいえない。成長するにつれ、お互い、趣味・関心・志向・思考が異なっていくのは仕方がないことだ。それが大人になるということなのだから。

 

 東京で毎年開いている、高校で特に親しかった連中との飲み会。昨年の忘年会にとあるツテで彼が初めて参加したときは、高校を出てから42年も経っていた。だが、すぐに温まる旧交もある。彼の歌のいくつかをYoutubeで聴き、小さなライブハウスで催される彼の弾き語りを追いかけるようになった。

 

 私は何ほどのこともできなかったが、高校同期の連中の仕掛けで、12月6日に故郷のいわき市でイサジ式がライブコンサートを開くことになった。彼が今年、初めてのソロCDをリリースしたことを記念する意味もあった。

 

 私も常磐線特急に乗って出かけた。私は18歳の高校卒業と同時に実家が宮城県多賀城市に引っ越したので、この街には親も親戚もいない。むろんいろいろ理由があって、たびたび訪れることはあるのだが、今回の訪問はまた格別な意味があった。

 

 公的な高校同窓会というものにはほとんど顔をださないから、東京でも縁がある連中以外は、ライブ会場に集まった同期生たちの顔と名前はほとんどわからなかった。たしかに半世紀近い年月が容貌を変化させたということはある。それだけでなく、何か自分の認知能力が断絶しているようでもどかしい思いもしたのだが、やはり少年期、青春期に密に付き合っていないと、たんなる同窓生というだけでは、すぐには顔を思い出せないものだ。

 

 かくして「フォーク者 イサジ式CD発売記念いわき漂着LIVE」は、The Queen というライブハウスに50人余の観客を集めて、そこそこ盛会だった。案の定、打ち上げは高校同窓会となり、2次会まで数え、さらに私はホテルの部屋で、ライブのプロデューサー役と動員役の一人と遅くまで酒を酌み交わした。


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 原発事故の復旧作業員の流入と、避難指定区域からの住民の移入で、いわき市、特にその商業中心である平の街は「活況」を呈していると聞いていたが、私が訪れた日曜の午後は人のにぎわいも少なく、駅前には北風が舞うばかりだった。こんな小さな街だったっけ。言葉は悪いがしなびれた感じが少しした。駅に着くなり駅前の空中歩廊で繰り広げられていた、YOSAKOI踊りのイベントに辟易したこともあって、久しぶりの平の街の印象はよくなかった。私はあの踊りのスタイルが苦手なのだ。

 

 そんな寂しい心を、ライブが解きほぐしてくれた。冬の日のぬくもりのようなものを、私の心に灯してくれた。

 

 イサジ式のギターと唄は、私の数少ない視聴体験からだけれども、この夜はよく鳴っていたように思う。鳴きすぎて、唄の途中で本人が涙声になってしまうシーンもあった。彼はそれを老人性の「感情失禁」などと茶化すのだが、故郷でのライブに彼なりの尋常ならざる想いがあって、それがふと表出したのではないかとも思うのだ。

 たしかに、仕掛け人の一人が言うように、いい夜だった。再会があり、新しい出会いがあった。久しぶりに唄を感じる夜だった。

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