稲田朋美=防衛相・自民党衆議院議員・日本会議国家議員懇談会所属による、公職選挙法違反、自衛隊法違反、ひいては憲法違反の発言。朝日新聞がライブで放送したきょうの記者会見をみたが、何を聞かれても「誤解をまねきかねない部分はすでに撤回した。お詫びする。しかし辞任はしない」を繰り返すだけで、古くさい比喩で恐縮だが、まるで壊れたテープレコーダーのようだった。(写真は東京新聞から)
失言を追及して大臣の首を取って喜々となる風潮について、私は昔からよしとはしてこなかった。もちろん、大臣たる資質を満たさず、法令を遵守しない政治家をマスコミが指弾するのは当然のことだが、たとえ辞任に追い込んでも、つぎにもっと狡猾な奴が登場する可能性がある。
失言するだけまだアホで可愛い。アホに大臣を続けさせて、もっとボロをださせたほうが、最終的には任命責任者、そいつが総裁を務める「党」の、どうしようもない体たらくを満天下にさらし続けることになるのだから、まあ、このまま大臣を続けさせればいい。
問題は法令遵守精神を欠落させた大臣をこのまま国家防衛の責任者に留め置くことの、国益的な観点からみたリスクだが、そんなこたぁ、俺の知ったこっちゃない。ワイドショーのコメンテーター、保守、ナショナリスト、中国や北朝鮮の武力侵攻に怯える妄想族らが、頭抱えて悩めばいいだけの話である。
それはともあれ、きょうの会見で稲田氏は、都議選候補者応援演説のなかで、
「下村(博文)先生との強いパイプもあり、自衛隊・防衛省とも連携のある○○候補(※実際の演説では実名)をお願いしたい。防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」
と演説した箇所のうち、「防衛省、自衛隊、防衛大臣」の部分を撤回、演説の本来の趣旨は「自民党として応援をお願いしたい」ということだったと強弁した。
自分の発言をこうも簡単にツギハギできる「撤回マジック」には恐れ入るが、そもそもなにゆえに「防衛省、自衛隊、防衛大臣」という言葉が入ってしまったかといえば、「板橋区の隣の練馬区には自衛隊の師団があり、日頃から地元住民には自衛隊に協力をいただいている。それへの感謝のつもりであった」と弁解する。
つまり、防衛省、自衛隊、防衛大臣として感謝したことと、自民党議員として候補者への応援を要請したのは別の文脈だったと言いたいようだ。ところが実際の発言は違う。「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としても」という発言は、途中になんの接続詞もはさまず一息に発言された、一続きのものであることは、録音の起こしを読んでも、実際の発言を記録した音源を聴いても、間違いのないことだ。
文脈を分解すれば、
候補者は、
- 下村博文と強いパイプがある
- 自衛隊・防衛省とも連携がある
したがって、
- 防衛省として(応援をお願いしたい)
- 自衛隊として(応援をお願いしたい)
- 防衛大臣として(応援をお願いしたい)
- (さらに)自民党としても応援をお願いしたい
という構造になる。少なくとも、一般的な日本語の文法としてはそうなる。
明らかに、防衛省の立場、自衛隊の立場、防衛大臣の立場に立って、あるいはその名を騙って、有権者に投票を乞うている。これを法律違反といわずして、何を法律違反といえばいいのか。
真の問題は、いかに自分の発言を削除・編集して糊塗しようにも、どうにも塗り替えることができない、稲田氏の思想、その法律認識、その行動そのものである。