熊本地震のニュースでさかんに「別府ー島原地溝帯」という言葉が出てくる。
別府-島原地溝帯は、東北東から西南西へ延長約200km、幅20㎞-30kmにわたっている。多くの活火山が分布し、地震活動が活発である。
今回の地震はこの地帯の断層が動くことで引き起こされたものではないか、という。
地質や地震の専門家の間ではもちろんその存在は知られていたし、政府の地震調査研究推進本部の「熊本県」編でも、
陸域の浅いところでこれまでに発生した被害地震は、主に別府−島原地溝帯に沿った地域とその周辺(布田川(ふたがわ)断層帯・日奈久(ひなぐ)断層帯に沿う地域など)で発生しています。
などと自明のことのように語られている。
しかし、私は「別府ー島原地溝帯」という言葉を今回のニュースで初めて知った。知らなかったのは私だけかもしれないけれど。でも、これってそんなに有名だった?
「地溝帯」という言葉で私がまず思い浮かべるのは、「フォッサマグナ」だ。
フォッサマグナは私たちの時代の小学校でも習った。日本を東西に分断する溝のようなものがあると聞いて、子供時代の私は恐怖におののいた。「日本列島はいつかそこからポキッと折れるんじゃないか」と。
命名は明治時代に日本を調査したドイツの地質学者ナウマンによるものだが、このときナウマンが同時に命名した「中央構造線」のほうはなぜか心に響かなかった。東北地方に住んでいた子供だったので、西日本の地理に疎かったのだろう。日本列島を鶏のササミにたとえれば、その身を繊維にそって裂くように走る筋のようなものだ。
「地溝帯」という言葉は最近ではむしろ、アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷「大地溝帯=グレート・リフト・バレー」のほうが日本人にとって身近かもしれない。なにせNHKあたりの“驚異の自然”的なドキュメンタリー番組の定番でもあるからだ。
しかしながら、地溝帯は海外のミラクルワールドだけにあるのではなく、いまここの日本にも存在しており、もしかしたらあなたはその真上に住んでいるかもしれない。そのことを如実に示したのが今回の熊本地震である。それは驚異ではなく、脅威なのだ、残念ながら。
テレビの地震学者は「別府ー島原地溝帯には九州を南北に引き裂く強い力がたえずかかっており……」などとシレっと語っている。地質学的年代と人類史的年代ではスケールが端から違うのはわかっているつもりだが、
数十万 - 数百万年後には大地溝帯でアフリカ大陸が分裂すると予想されている
てな話もあって、九州だっていつかは2つの島に分裂しないとも限らない。
いずれにしてもそんなところに人が住んでいる。住まざるを得ないのが地震列島=日本の現状だ。建物の耐震化、避難訓練、ライフラインの確保といった防災施策は重要であるが、それでも自然の脅威は人間の想定をはるかに超えてやってくる。その日本列島が、地震学的に活動が活性化する時期に入っているとすれば、地盤が安定していることを前提として作られている人工建築物のリスクはさらに高まっているといわざるをえない。もちろん原子力発電所もその一つだ。