▲ハイフォンの街を見下ろす。人口170万人。ソンコイ川(紅河)河口に開けた河川港で、ベトナム北部最大の港湾都市。河岸に巨大なクレーンが見える。ハイフォンは漢字で書くと「海防」。仏領インドシナ時代は、フランス海軍の極東最大の基地が置かれていたという
▲ハイフォン駅。黄色いフランス風の建物
ハノイを起点にするパッケージツアーには、世界遺産のハロン湾観光や、少数民族の里サパをオプションに組み込んでいるものが多い。ホテルや街角の旅行代理店でも、個人旅行者向けのオプショナルツアーとして、これらを売り出すところが多い。私たちのホテルでもチェックインするなり、「ハロン湾とかサパとか行きませんか。リーズナブルなツアーを用意できますよ」と誘われた。
私たちが渋っていると、「1週間もハノイにいるの? 他にはどこ行きますか」と聞いてくる。「ちょっと鉄道に乗ってハイフォン(Thành phố Hải Phòng)あたりまで……」と答えると、呆れられた。ホテルの女性マネージャーは、「ハイフォン? ビジネスで行くんならわかるけど、何にもないよ。港と巨大なクレーンがあるだけよ」と高笑いした。
別に笑われることじゃないと思うんだけどな。ハイフォンはたしかに貿易都市であって観光地ではないけれど、ちゃんと『地球の歩き方』にも行き方が紹介されている。ま、そもそもは、鉄道に乗って日帰り旅行したいだけなので、目的地はどうでもいいのだ、私たちの場合。
というわけでみなの「反対」を押し切って、ハイフォンである。たしかに、観光的には何にもなかった。というか、私たちもほとんど観光的なふるまいをしなかった。ハイフォン風の麺料理「バインダークァ」も食べなかった。駅前のカフェでお茶をし、街のホテルの最上階で、街の全景をカメラに収めながら、あんまり美味しくない海鮮パスタを食っただけ。そして帰りは、高速バスでハノイに帰って来た。
バス・ターミナルがガイドブックの記載と違って、中心部から3~4kmほど離れた場所に移転していたので、こればかりは計算外だったが……。ハイフォン~ハノイを結ぶ道路際では、日系企業も看板を掲げる大規模な工場団地や、後でも触れるイオン・モールを発見した。ベトナムの産業と消費の隆盛ぶりを垣間見ることができたのは悪くなかった。
ハイフォンの街では、2人乗りのオートバイでベトナムを巡るふうの、若い欧米人客に出会った。交通マナーがあんまりよろしくないベトナムで、バイクツーリングとは勇気があるが、こういう旅の仕方もありだとは思う。
ハイフォンからハノイに戻ると、ホテル・マネージャーがにやにやしながら、「ね、何もなかったでしょ」「いや、それなりに面白かったよ」「Do you swear?(ほんとに?)」
ま、誓って言うほどのことではないが、いいの、いいの。旅には、それぞれの流儀があっていいんだから。
▲名前は忘れたが、ハイフォン線の途中の駅。プラットホームをおばさんが行く
▲車窓にはひっきりなしにコンテナ・トラックが行き交う
▲ハイフォンのバスターミナルからは頻繁に各方面への長距離バスが出ている。ハノイまでは2時間ほど。帰路の夕焼けが美しかった