小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

日経「東京五輪の迷走 新国立、エンブレムで終わらない」

 エンブレム問題などが、オモシロ可笑しくワイドショーなどで採り上げられるに至って、私はもうこの問題はいい、それ以上に、考えるべき問題はいくつもあると思うようになった。一つは「安保法制」の国会審議。ネットやワイドショーの馬鹿騒ぎは、そうやって国民の不満の“ガス抜き"をしながら、実はオリンピック以上に重要な社会の争点を、あいまいにする機能を、現状では果たしている。昨晩のテレビ番組で宮根誠司がエンブレム問題を得意顔で解説するのを聞いて、あらためてそう思った。


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 むろんそうはいっても、オリンピック開催そのものは極度に政治的な意味をもつ国家イベントであることに変わりはないから、その決定・推進過程に、いかに日本の民主主義が活かされているのか、あるいは無視されているのかは、あいかわらず重要な論点ではあることはたしかだ。


 つまり、私が言いたいのは、オリンピックのことを考えるのであれば、これからの関心の方向は、「佐野厄寄せ大師」の個人的振る舞いをあげつらう床屋政談や、「アスリートが可哀想」などという同情論を超えて、オリンピックの政治性や経済性への批判そのものではないのかということだ。これから私たちが持つべきものは、つまりオリンピックを社会科学的に評価する視点なのである。


 そうした議論の材料になるような記事が今朝の日経に掲載されている。

⇒ 東京五輪の迷走 新国立、エンブレムで終わらない:日本経済新聞 2015/9/7 3:30:

 曰く、

 東京五輪の競技場整備を巡る誤算は、国が整備する新国立競技場だけで起きていたわけではない。東京都が整備を担当するスポーツ施設の工事見積額が当初の予算を大きく上回ってしまい、準備局の担当者は費用の圧縮に追われているのだ。

 東京都が臨海部を中心に整備する予定だったスポーツ施設は合計10カ所。しかし、工事見積額が当初の予算の範囲内に収まっているものは1つもないという。

 「工事見積額が当初の予算の範囲内に収まっているものは1つもない」というのは、知りたくなかった恐るべき真実だ。予算オーバーの現実は酷いものだ。

 その象徴が「海の森水上競技場」。そもそもは、東京臨海部の新名所「東京ゲートブリッジ」のたもとに、ボートとカヌーの競技会場として、東京都が69億円で整備する予定だった。

 ところが、「五輪開催が決まってから現地を調査したのだが、観客席を設ける場所の地盤が悪いことがわかった」(準備局の花井徹夫・施設輸送担当部長)という。

 地盤を改良して建設すると、1038億円かかることが判明。費用は当初見込んでいた金額の約15倍にも膨らんでしまう。東京都は、観客席の位置を変えるなど計画を変更したが、それでも491億円。当初計画の約7倍とケタ違いの費用が発生してしまう。

 なんでこんなことになっちゃうんだろう。

 開催地に立候補した時点で、東京都は10施設の整備費を合計1394億円に抑えられると試算していたが、開催決定後は一転。総額が一時、約3倍の4059億円にまで膨れ上がった。現在は海の森水上競技場の計画見直しなどで2281億円に圧縮しているが、それでも当初の1.6倍だ。

 見積もりが膨らんだのは、これまでは「景気回復や震災復興需要に伴う、建設業界の人件費と資材費の上昇が一因」とされてきたが、どうやらそれだけではないらしい。

 大会招致委員会が整備費を記載した立候補ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出したのは2013年1月。整備費用は、国内の類似施設をベースに算出していたが、計算したコストは純粋に建物の施工費だけだった。

 建物のコスト以外にも、設計委託費や周辺の敷地整備費用などは当然含まれるべきコストであるのに、それらを除外していたというのだ。かくして東京都の整備計画はいまボロボロ(上図参照)。

 コスト問題だけではない。招致にあたって叫ばれた「コンパクト五輪」のコンセプトも、今ではほとんど詐欺のような状態になっている。

 東京都や国、日本オリンピック委員会(JOC)などは2020年の五輪の開催地に東京が手を挙げたとき、競技施設の大半が東京臨海部を含む都心部の半径8キロ圏内に収まり、ベイエリアの選手村から選手たちが楽にアクセスできる点をアピールしていた。

 もはや東京五輪の招致に携わった国や東京都が訴えた「低コスト」「コンパクト」という強みはかすみつつある。国の新国立競技場も、東京都のスポーツ整備計画も、実現性を十分に考慮しないまま突っ走った構図はうりふたつだ。

 さあ、どうする東京五輪。こうした体たらくが続くのであれば、「返上」論も現実味を帯びてくるのではなかろうか。

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