小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

私の歩んだ戦後70年 ドイツ文学者・エッセイスト、池内紀

⇒ (寄稿)私の歩んだ戦後70年 ドイツ文学者・エッセイスト、池内紀::

 そこ(カントの「永遠平和のために」)には国どうしが仲良くといった情緒的な平和は、ひとことも述べられていない。カントによると、隣り合った人々が平和に暮らしているのは、人間にとって「自然な状態」ではないのである。むしろ、いつもひそかな「敵意」のわだかまっている状態こそ自然な状態であって、だからこそ政治家は平和を根づかせるために、あらゆる努力をつづけなくてはならない。

 そのような平和を根づかせるには、ひとかたならぬ忍耐と知恵が必要だが、敵意のわだかまる「自然な状態」を煽(あお)り立てるのは、ごくたやすい。カントによると、その手の政治家はつねに「自分の信念」を言い立て、「迅速な決断」を誇りつつ、考えていることはひとえに、現在の世界を「支配している権力」に寄りそい、ひいては「自分の利益」を守ることだという。いまさらながら、この哲学者の理性のすごさを思わずにはいられない。

朝日新聞デジタル 2015年8月14日05時00分

 

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