小石川日乗Hatena版

おっさんがよしなしごとを書き散らします

現代における「転向のススメ」

 安保法制反対をめぐる市民の行動に怖れをなしてか、政権党やネトウヨはもとより、よくわからん輩からの、闘う人々への誹謗中傷攻撃が高まっている。「#SEALDs の皆さんへ。就職できなくて #ふるえる」と題した福岡県行橋市の「小坪」っていう市議のブログが話題だ。(リンクはいちおう貼っておくけど、人相の悪いにーちゃんが薄ら笑いしている写真が出てくるから、はっきり言ってキモいよ。)

 私は勇気を出してちょっと読んでみたが、ひでえもんだ。要は「政治的なデモなんてやっていると、満足に就職もできなくて、あんた困るよ」という、田舎の母ちゃんみたいなグチを延々と書きつのっているだけ。その職業観や企業観、いや社会観や人生観までもが、もう古すぎて、ついていけない。さらに輪をかけて文章がめちゃくちゃで、この問題を伝えるLITERAの記者さえ「文章が日本語の体をなしていないので長々と引用することはしない」と困惑気味だ(笑)。


 SEALDsで活動している学生の親が心配して言うのならまだわかるが、なんでオマエが言うの? 

 前記のLITERAの記事によれば、この市議自民党の「言論統制サークル=文芸懇」の木原稔とつながっているという話。総督のおぼえをよくしようと、安倍のケツのアナをなめている男の、さらにその●●をなめましょうと手を挙げている小粒な成り上がりが、「小坪」ってわけだ。


 むろん、この手の話ってのは戦前からあるだろう。要は特高警察が獄中の「主義者」に向かって放つ「故郷の両親は泣いているぞ」っていう「転向のススメ」。

 その背景には日本社会の同調圧力、革命運動弾圧の意志、天皇制の呪縛、まあいろいろあるわけだ。中野重治なんかそれを文学にまで高めたから偉いもんだ。

 ちなみに人に思想的転向を迫るのに、真っ向から理論闘争をしかけないで、家族や世間体、就職や出世といった社会慣習、社会常識を持ち出すのは、一言でいえば、日本人が近代的な意味での「個」として確立していないからじゃないかと思う。

 よくわからないが、かつての「白バラ」などナチスへの抵抗者たち、あるいは天安門デモに参加した中国の学生たちにも、こういう情に訴える形式の転向強要はあったんだろうか。すごく日本的なやりかたのような気もするんだが。


 こうした日本的転向のススメは形を変えて今もあり、近年強まっているような気がしてならない。


 最近も「うちのおじさんが戦前共産党特高警察につかまって親戚じゅうえらい迷惑したそうだよ」みたいな話をトクトクと語るツィートをみかけた。このツィーター(私の知り合いだけに辛いものがある)は「一時の気の迷いで中核派や民青の活動家とつるんで、一生公安にマークされて苦労したらええねん」とSEALDSの学生たちを突き放す。学生たちにしてみれば、「おっさん、余計なお世話だぜ」ってもんだろう。SEALDsが中核や民青と密接なかかわりがあるという陰謀論を振りまく時点でもうアレなんだが(俺は関係あったって、別にいいんじゃない、という立場だけど)、発想が「小坪」並みの奴はどこにでもいるってことだ。


 この手のやからは在特会のデモ参加者に対してはけっしてこんなこと言わないから、要はただのcommie-hater(アカ嫌い)なんだろう。こういう人とはあまり生産的な話ができない。あるいはたんに「特高」とか「中国人民共和国公安部」とか、「チェーカー」とか「ゲシュタポ」とか、喜々として人の思想を統制する国家機関に萌えるタイプなのかもしれないが、ここまで至れば話は別次元だ。


 それにしてもたんに政府の政策に反対してデモしただけで、ここまで言われるかね。今は、戦前と同じ時代なのかね。


【追記】

2015/07/30の朝日にこんな関連記事:

⇒ デモに参加すると就職に不利? 「人生詰む」飛び交う:朝日新聞デジタル:

 衆院の安保審議が大詰めを迎えた14日以降、「就職や結婚に響く可能性」などという大学生のデモ参加をめぐるツイートが次々と投稿された。「デモに行くだけで、確実に人生詰みますよ」「就職に不利益が…」。16日にツイッターに投稿されたつぶやきは約3千回もリツイートされた。

 ここでいう「就職」てなんだろうね。そりゃ軍需産業とか財界中枢企業では、今でもこっそり思想調査とかしてそうだけど、そんなとこばかりが企業じゃないんでね。いま立ちあがっている学生はそもそも「社畜」なんぞになろうとはしてないよ。SEALDsを見ていると、社会起業家としてのコミュニケーション力やインテグレーション力抜群の子たちが多そう。それにしても、この記事を欧米に配信したら不思議がられるだろうな。日本の世間ってなんて狭いの、と。

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